高知出身の女性4人組バンド、sympathyの2ndミニアルバム、
『トランス状態』が7月15日にリリースされた。
収録曲全6曲のうちM1〜M5の5曲に、ディレクション&共同プロデュース
という形で関わった。
彼女たちのキャッチコピー、“超絶無名バンド”って誰が考えたんだろう?
確かに、昨年リリースの1stミニアルバムが大きな話題になったわけでもないし、
ライヴハウス・シーンで注目されているわけでもない。
オフィシャルに載っているインタヴューなどでこれまでの経緯を語っているので、
なぜ彼女たちが超絶に無名なのかはそちらで把握していただくとして。
彼女たちが現在の事務所に入るきっかけとなった東京での
1回きりの2014年夏のライヴ、実は僕も偶然?観ていた。
8月18日の渋谷O-Crest。
このとき、その会場に僕が目利きと認識している音楽業界人が
最低2名いたことも覚えている。
その事実だけで「あれ、このバンドなんかあるのかな?」
という匂いを感じ始めていた、ような。
ちなみに僕はライヴを観たら必ず感想をメモしているのだが、
彼女たちに関しては、ドラムとギターのプレイの素朴さに触れつつ、
「vocalの子のシャウトと歌詞に未来あり」と結んでいる。
その、1枚のミニアルバムと東京での1回きりのライヴという実績のみで、
現在の所属事務所の社長は彼女たちにアプローチし、
ビクター内の新レーベルconnectoneからのリリースも決定。
これ、まずフツーはあり得ないトントン拍子の展開だ。
しかも本人たちはそういう活動を特に望んでいなかったにも関わらず。
今年に入り、まずはミニアルバムをリリースしよう、と決まったはいいが・・・。
二人が高知在住、一人が東京、一人が滋賀という距離。
加えて全員が学生であるため、平日はまず活動することが出来ない。
まとまってレコーディングするには、春休みを利用するしかない、
ということで3月にプリプロ〜レコーディングを行った。
最初は基本的な音楽用語を教えて共通言語を持つところからスタート。
もしかして相当大変なことになるのかなあ、と覚悟をしていたが、
僕はその後、彼女たちの恐るべき吸収力、理解力に舌を巻くことになる。
日を追うごとにミュージシャンとして成長し、
覚えたことを確実に実践し、さらに工夫する。
ドラムテックは元HOW MERRY MARRYの河添将志くん、
ギターテックにはTHEラブ人間、エドガー・サリヴァンの坂本遥くん。
現役のバンドマンである二人がいてくれたおかげで、
メンバーはとても安心してレコーディングに臨めたと思う。
河添くんは頼もしいし、遥くんは若いのに教え方が上手。
メンバー4人は仲良しではあるが、決してなあなあになることはない。
遠慮をせずに意見を言い合い、sympathyというバンドの
アイデンティティを確認しながら進めて行く。
これ、なかなか出来ないこと。メンバー同士でも遠慮してしまったりする。
でもこれが出来ていないと、バンドってものは長続きしないんです。
そして、僕はそんな彼女たちの2015年春時点の姿を、遠慮をせずに意見を言い合い、sympathyというバンドの
アイデンティティを確認しながら進めて行く。
これ、なかなか出来ないこと。メンバー同士でも遠慮してしまったりする。
でもこれが出来ていないと、バンドってものは長続きしないんです。
鮮度を損なわないように記録することに専念した。
彼女たちがやりたいことを、僕なりの解釈でプレイや音色などに
関してアドヴァイスをするだけ。
過剰なお化粧やお仕着せのアイディアは必要ない。
だって、彼女たちが考えたこと、思いついたことを
実行するのが、いちばん面白いんだから。
たとえば。
sympathyの曲には、テンポチェンジやブレイクが頻繁に出てくる。
譜面で会話しない彼女たちが、言葉とメロディと自分たちの奏でる
音に寄り添ったときに、自然に生まれるものなんだと思う。
それは曲にとって必然で、全体を通して聴いてみると、
「なるほどなー」と感心することが多かった。
曲にも、詞にも、アレンジにも演奏にも、物語があるのだ。
ま、そういう作りなので、多くの曲はクリックを使わず(使えず)、
リズム録りもダビングもちょっと苦労しましたけど。
今作のエンジニアの田中俊介さんとは、久々の再会だった。
彼は以前青葉台スタジオにいて、スピッツの『スーベニア』という
アルバムで、1枚まるごとアシスタント・エンジニアを務めてくれた。
それ以来、約11年振りのお仕事。
ま、この年齢になると、10年なんてついこの前なので、
すぐに昔のテンポを思い出し、とても良いリレーションで
仕事ができたんですけどね。
ここでの再会が存外に良い感触だったので、実はその次に入ってきた
新規プロジェクトのレコーディングも、田中さんと行ったのだ。
縁というのは不思議なものだなあ、と改めて。
さてさて。
マスタリングまで足掛け3ヶ月(何せ、4人集まれる日が限られている)
という期間で出来上がった2ndミニアルバム『トランス状態』。
6曲目「あの娘のプラネタリウム」は、バンドが初めて作ったオリジナル曲とのこと。
この曲だけ出羽良彰さんのサウンド・プロデュース&編曲で、
流石のサウンド・クオリティ。
6曲全体で語られるストーリーが見えてくる、そんなアルバムだ。
リード曲「さよなら王子様」のMVはこちら。
隙間いっぱいの音作りは、今どきの主流とは違うかもしれないけど、
彼女たちにしか作れないオリジナルなサウンド。
どうか、超絶無名から、有名バンドへ羽ばたいてくれー!
つーか早く東京でライヴ観たいので、その辺ひとつよろしく。
※大阪で8月21日にフリーライヴ決定。なんと、BIG CAT!
詳細はオフィシャルでチェック!
p.s.
sympathyの音楽は作詞作曲も含めてメンバー4人で作り上げるのだが、
大きく分けてヴォーカルの柴田さん主導の曲と、
ギターの田口さんが主導の曲に分かれる。
柴田さんが中心となって作った曲は、
迷いの無い一筆描きのような思い切りの良さがある。
対して田口さんは、繊細でアンビヴァレントな感情を、
これしかないというところまで考えたメロディと言葉で綴る。
そういう音楽を、柴田さんはときに可愛らしく、
ときに素っ気なく、ときにいたずらっぽく、ときに悪ぶって歌う。
そうだ、びっくりしたことがあった。
レコーディング中のあるとき、柴田さんが、
「なんか、歌っていると自分が作った曲か(田口)かやなの曲か、
わからなくなるよね」というような主旨だった。
そんな人、柴田さんしかいないよ。
自分で曲を作る人が、他の人が作った曲を歌うとき、
何かしらの違和感(とまでは云わないまでも、違い)を
感じないとしたら、それは奇跡だ。
sympathyのメンバーはそれだけ一心同体、ということなのか。
いやはや、これからの展開が全く予想できないけど、
こんなバンド、いろんな意味で前代未聞。
未来に期待しかないっす。