2016年7月24日日曜日

wilsonic works 65


2016年7月13日は、パレードパレード初の全国流通盤ミニアルバム、
『Squall』の発売日。メンバーとの共同プロデュースという形で全面参加した。
今回のミニアルバムは彼らにとって3枚目だが、初の全国流通となる。

パレードパレードは、札幌で結成された4人組ポップ・バンド。
キーボード&ヴォーカルの大松沢ショージが曲を書き、
ギターの松本晃貴が詞を書く(この関係性、ウルトラタワーと同じ)。

パレードパレードの音楽は、“シティ・ポップ” と称されることが多い。
この “シティ・ポップ” というジャンル名に関してちょっと説明をば。

元々は1970年代の “ニュー・ミュージック” が、アメリカ等の同時代の
フュージョン〜クロスオーヴァー、ファンク、AOR等の影響を受け、
職業アレンジャーとスタジオ・ミュージシャンが作り上げた音楽を指す。
80年代初頭〜中盤、シンガー・ソングライターを中心に
シティ・ポップと呼ばれる音楽がひとつの潮流を作り、
アイドル、歌謡曲の世界でも同様のサウンドが導入されるようになった。

それとは別に、ここ数年、東京のバンドを中心に “シティ・ポップ” と
呼ばれるものが増えている。
これらのバンドの多くは、80年代の “シティ・ポップ” と
直結しているものではないようだ。
まず、それらのほぼ大半がバンドだということが特徴。ソロ・シンガーは少ない。
そして、70年代後半〜80年代を踏まえているのではなく、それ以前の
70年代前半へのオマージュからスタートしているバンドが多い。
はっぴいえんど、はちみつぱい、シュガー・ベイブ、ティン・パン・アレイなど。

これら70年代前半に活動したバンドたちは、その後の足跡や
度重なる再評価によって現在では揺るぎない地位を誇っているが、
70年代当時は一般的には「マイナー」だし、「マニアック」な音楽だった。

対して、80年代のシティ・ポップは、メジャーだった。
山下達郎の『RIDE ON TIME』(1980)、大滝詠一『A LONG VACATION』(1981)
という、70年代にマイナーだったバンドのメンバーのアルバムが、
80年代初頭に大ヒットしたのは、象徴的な出来事。

さてさて、かように “シティ・ポップ” というのは解釈が難しいというか、
話す人によって随分意味合いが違ってくるのだが、
話はいったいどこに進むのかというと、パレードパレードの “シティ・ポップ” は、
いったいどういう音楽なのか、ということ。

彼らの音楽の分母には、80年代の “シティ・ポップ” も、
そしてそれらを構成していた70年代〜80年代の洋邦ポップスも、
そして同じくリアルタイムに聴いてきた90年代後半〜現在に至る
同時代の音楽も総て並列にあるように思う。
スティーヴィ・ワンダーもユーミンも星野源もディアンジェロもみんな並列。
音楽を聴き始めた頃からYouTubeが存在する世代の “シティ・ポップ” 。

時代もジャンルも洋も邦も問わず、面白いと思うもの、
カッコいいと思うものを追い求め続けていたら、
全くオリジナルな音楽が出来上がった。そんな感じ。
そこに最近の “シティ・ポップ” バンドに見られる
サブカル的な側面が一切感じられないのも特徴。
とても素直に、直感的に音楽に向き合っている。

バンドの音と打ち込みを同居させ、隅々まで練り上げられたサウンド、
様々な形で現れるヴォーカル・ハーモニーへのフェティシズム。
「林檎」に顕著なちょっと淫靡な香りすらする、男女の機微を描く歌詞。
今、横並びで同じような音を鳴らしているバンドは、まずいない。
よくよく聴き込むと相当変なことやっているのに、ポップスとして機能する。
パレードパレード、最強じゃないか。

アルバム1曲目を飾る「林檎」のMVはこちら
彼らのルーツや楽曲作りの背景に迫るロング・インタヴューはこちら。
初の全国流通盤『Squall』、お見知りおきのほどを。

p.s.
パレードパレードは、前回このブログで書いたOfficial髭男dismと共通点が多い。

共にヴォーカリストが鍵盤を弾く。&ドラム、ベース、ギターの4人組。
地元である程度のキャリアを積み(コンテストで上位入賞など)、
満を持して2016年前半に上京、活動の拠点を東京に移す。
Official髭男dismは山陰、パレードパレードは北海道と、
これまで活動してきた地域の違いはあれ、年齢も近く、
僕が関わるタイミングも近かったので、ちょっとしたシンクロニシティ。

東京という情報過多な街で活動していなかったことが、
それぞれのバンドのオリジナリティ形成にプラスに働いている、
というのも共通点かな。
共に、東京からはまず出てこない音楽だと思う。

あ、ヴォーカリストが共にaikoファン、というのもオマケの共通点。


2016年6月18日土曜日

wilsonic works 64


6月15日にリリースされた、Official髭男dismのミニアルバム、
『MAN IN THE MIRROR』にディレクターとして参加した。

まずはバンドのプロフィールを簡単に。

2012年にバンド結成したピアノ・ポップ・バンド。
山陰をベースに活動を続ける。
2015年に初の全国流通盤、『ラブとピースは君の中』をリリース。
全国的には未知の存在ながら “タワレコメン” に選出されるなど、
その高い音楽性、ポップな質感が、このリリースによって俄然注目される。
2016年、活動の拠点を東京に移す。

全員が上京してすぐにこのアルバムのレコーディングがスタートしたのだが、
レコーディングしながらいろんなことをすぐさま吸収し、成長する姿を見て、
その理解力、咀嚼力にびっくりしたものだ。

やりたいこと、鳴らしたい音、目指す完成形がわかっている。
その理想に向かって、試行錯誤と取捨選択をしていく。
メンバー同士でも提案したり、相談したりするし、
エンジニアの古賀健一くんや僕が、アドヴァイスしたり選択肢を提示したり。
密度が濃く、とても充実したレコーディングだった。
僕もたくさん勉強させてもらった。

彼らの良いところはたくさんあるのだが、何より素晴らしいのは、
アカデミックな意味での音楽的知識を充分持っているのに、
出来上がったものが頭デッカチな音楽になっていないこと。
これ、とても重要。
それは彼らの音楽が身体を伴っているから。
センスや知識が先行する、リスナー体質の音楽ではないのだ。
だから聴いていて痛快なの。
考える前にカラダが反応しちゃうの。
「生演奏」の質感を大事にした音作りもとても心地よい。


個人的には、歌入れがとても楽しかった。
僕のオールドスクールな歌入れのスタイルも、
彼らの志向性とマッチしたみたいで何より。

オールドスクールな歌入れとは、プロトゥールス普及以前のスタイル、
とでも思っていただければ、と。

ちょっと脱線。

最近、デヴィッド・ボウイとの仕事で知られる音楽プロデューサー、
トニー・ヴィスコンティがアデルとちょっともめたニュース
あったけど、彼が言う通り、今どきの音楽の大半は、演奏にも
ヴォーカルにも何らか機械的な処理がされている。

新しいハードやソフト、プラグインや概念などが、
新たな音楽的刺激をもたらすことがある。
新しい音楽のジャンル名が出てくるときに、こういった新しいテクノロジー、
もしくは今までと違う使い方を発明することがきっかけとなることは多い。
ポピュラー音楽の歴史、進化は、テクノロジーの発達と切っても切れない関係にある。
それは確か。

しかし、だ。

テクノロジーを、新しい音楽をクリエイトしようという意志を持たず、
単に「便利なツール」として「安易に」使うことが昨今非常に多い。
そしてそのことによって音楽としての強度が減ってしまっているのが問題。
やり直せたり、取り返しのつく作業に、緊張感など入り込む隙はないものね。

あんまりくどくど書きたくないけど、少しだけ。

「便利なもの」は、「安易に」使ってはいけないんです。
慎重に使いましょう。
じゃなければ大胆に使いましょう。
そして「便利」が「当たり前」だと思わないほうがいい。
これは音楽に限った話じゃないよ。

あと、「音楽」は「見た目」じゃない。
これ、レコーディング現場のモニターの話ね。
画面を見て音楽を判断することに馴れてはいけない。
耳で聴いて思ったことを最優先せよ。

そんなわけで、僕のオールドスクールな歌入れは、
あまり最新の便利なテクノロジーを使わずに行われている。
必要以上にツルンとした質感の歌が多い昨今の音楽の中で、
Official髭男dismのヴォーカル藤原聡くんの、
リアルな息づかいが感じられる生々しい歌声は、どう響くのだろう。

ニュー・アルバム『MAN IN THE MIRROR』のリード・トラック、
「コーヒーとシロップ」のMVはこちら

ちなみにこのアルバム、iTunesで2週間先行リリースしたところ、
メンバーが目標としていたiTunesのアルバム・チャート1位を、
見事獲得している。
満を持してのフィジカル・リリース、というわけだ。

ご機嫌なアップテンポから切ないスローバラードまで、
詞も曲もアレンジも演奏も、更に研ぎすまされた全6曲。
ポップスのミラクルに溢れたアルバム『MAN IN THE MIRROR』、
Official髭男dismの伝説、ここからスタートです。


2016年6月14日火曜日

wilsonic works 63


6月9日の札幌ベッシーホールからスタートした、モノブライト
レコ発ツアー、“Bright Ground Music 〜B.G.M〜 Tour。
このツアー会場限定で販売されるシングル「bonobonoする」に、
アルバムに続いて共同プロデュース、ディレクションで参加した。

レコーディング自体は、アルバム『Bright Ground Music』の
作業とほぼ地続きだった。レコーディングに関わったメンツも
基本的にアルバムと同じ。
ただ、この曲はタイトルでも類推できるように、この4月からスタートした
フジテレビのアニメ、『ぼのぼの』の主題歌として書き下ろされたもの。

海と森を舞台にした『ぼのぼの』の世界を描写するように、
基本的にアコースティックな楽器と声だけで構築された「bonobonoする」。
エレクトリック・ギターを中心としたモノブライトのいつものサウンドとは、
ひと味違う仕上がりとなっている。

ツアー会場に行ける向きは、ぜひともこのワンコインCDをご購入し、
新しいモノブライトの音世界をお楽しみいただければ、と願います。

このツアー、残るは15日(水)は大阪、梅田CLUB QUATTRO、
17日(金)はファイナルの東京、恵比寿LIQUIDROOM。


さて、ここで “ライヴ会場限定CD” に関して少し書いてみようと思う。

最近の若者(若者に限らずだけど)は、まずCDを買わない。
いや今の時代、CDとは言うまい。「音源」を買わない。
音楽を「買う」という行為をしない。

「音楽が好きです」という人も、YouTubeサーフィンをするくらい。
Apple MusicAWALINE MUSICなどの有料会員だったらもう偉いレベル。
まあ、若いミュージシャン、バンドマンからして滅多にCD買わないしね。
CD買わないイコール、CDショップ、レコード屋に行かない、ということ。
だからいくら店頭でプッシュしていても、行かない人たちには一切届かない。
ライヴよく行く人でも、音源を買うという行為になかなか至らない。

音楽を買わない人を非難しているわけではない。
ただ時代がそうなっている、ということをちょっと悲しい思いで書いているだけ。

でも、ライヴ会場限定でCDを売っていたら?
これ、買う可能性高いと思うんですよ。
好きなアーティストのライヴに行って、その会場でしか
買えない音源があったら、買うでしょ。
好きなアーティストがライヴ会場でしか買えないCDを
リリースするなら、CD買いたいからライヴ行くでしょ。

初めて観たバンドのライヴがすげー良くて、しかも自分が
とてもいいと思った曲が会場限定のCDとして売られていたら、
そりゃ買うでしょ。
お金に余裕があればね。
そしてCDを再生するなりリッピングするなり出来る環境にあればね。
なんならCDというフォーマットじゃなくてもいいわけで、
それは今後の音楽の聴き方の主流に則れば良いだけのこと。

これからの(もっともっと音楽が売れなくなる)時代、
会場限定CDとか、ファンやファン予備軍に向ける売り方は有効だと思う。

あと、これからの(もっともっと音楽が売れなくなる)時代は、
大きな意味でパトロナイズが音楽を支えて行くと思われる。
会場限定CDは、そういった側面も持ち合わせるのではないか。
やり方によってはね。

いろんな意見が飛び交うクラウド・ファンディングも、僕は
やり方次第でいろんな可能性が見出せると思っている。

おっとこの調子で書き続けると止まらなくなる。

“音楽とパトロナイズ” に関しては、まだまだいろんなことを
考えなきゃいけないので、今日はこの辺にしときます。
またじっくり、改めて。

p.s.
アニメ『ぼのぼの』の原作である漫画『ぼのぼの』(いがらしみきお)は、
1986年の漫画雑誌連載スタート時から大好きな漫画だった。
30年経って好きな漫画のアニメ化、その主題歌に関われるなんて。
ちなみに、数年前谷澤智文くんから教えてもらった、いがらしみきおの
『羊の木』という漫画(原作:山上たつひこ)は衝撃だった。
『ぼのぼの』からは考えられない絵柄とストーリー。
個人的にここ数年でいちばんハマった漫画だった。
万人にオススメとは言えないけど・・・。

2016年4月27日水曜日

wilsonic works 62


本日4月27日は、スピッツの41作目(ダウンロード・シングルを含む)の
シングル、「みなと」の発売日。
フィジカルのシングルとしては2013年の「さらさら」以来約3年振り。

先週22日、テレビ朝日の「ミュージックステーション」に、
これまた3年振りに出演し同曲を披露した。
マサムネまさかのいきなり歌い出し間違えるというハプニングに、
スタッフ一同一瞬真っ青になるも、さすがに30年近く一緒に
やっているメンバー同士、阿吽の呼吸で立て直す。
結果的にはスピッツのTVパフォーマンス史上、かなりの上位に入る
出来だったのではないだろうか?

そしてこの日のもうひとつのトピック。
口笛とタンバリンでサポートに入ってもらった、スカートの澤部渡くん。

本人のツイッター(そして僕も含むリツイート)ぐらいしか
事前情報は無かったため、本番がスタートして、
視聴者の間で「あのタンバリン男は何者?」とざわつき始め、
その日以降非常に面白い広がり方を見せている。

今日、昼間に新宿のタワーレコードに行ったところ、
スピッツのコーナーにスカートのアルバムが置いてあり、
スカートを展開しているところにスピッツの「みなと」も並べられていた。
たまたまスカートを試聴してらっしゃる方がいて、
その人の片手にスピッツの「みなと」が、という光景を見るに至って、
いやあ今回こういう流れになって、本当に良かったなあ、と思った次第。
音楽が繋がって行くきっかけって、どこに転がっているかわからない。

あ、実はタワーレコード新宿店ってすごいんですよ。
4月20日のスカート『CALL』発売時の展開で、「スピッツファンにおすすめ!」
的なバイヤーによる手書きコメントがあったの。
Mステ出演の22日より前で、スピッツとスカートを結びつける情報は
流れてなかったにも拘らず。

そして、本日アップされたナタリーの澤部くんインタヴュー
インタヴュー時はMステ情報は出せないので、一切スピッツのことは
口に出していないのに、インタヴュアーからスピッツに関する質問が
出てくるというミラクル。

なんなんでしょうね、こういう偶然なのか必然なのかわからん連関。
きっと、誰かが仕組んだり仕掛けたりしたことじゃないからだと思う。

澤部くんは、今回の一連の流れを書いたこの日記で、
レコーディング参加オファーの際、「みなと」のラフミックス音源を
聴いたことを「ご褒美」と云ってくれている。
自分が大好きなものに正直に生きて、ショートカットとか楽することを選ばず、
ひとつひとつ丁寧に対処していくことは大切だなーと、改めて思う。
そういうの、必ず報われるから。
それが、ご褒美。


本日アップされた「みなと」のMVフルはこちら
ここ数年、スピッツの映像周り全般を手がけている北山大介監督、
今回も実に独創的でいて、曲に寄り添ったムーヴィーに仕上げてくれました。

ちなみに、今までに無いインパクトの今回のジャケット
アート・ディレクションはいつものCENTRAL67木村豊。
写真素材は『音楽喜劇 ほろよひ人生』という、1933年(昭和8年)の
日本のミュージカル映画のスティル。
マサムネが戦前の日本映画のスティルをいろいろ探してきて、
中でもいちばん使いたい写真がこれだった。
ちょっと見ただけでは時代も国籍も判然としない、趣深い写真だ。

僕はこの映画のことを全く知らなかったのだが、
この写真をジャケットに使用することが決定してすぐに、
読んでいる本の中にこの映画に関する記述を見つけ、その偶然に驚いた。
その本は、『大瀧詠一 Writing & Talking』という、
大瀧詠一さんが生前に残した文章や会話などが網羅されている一冊。
昨年春に出版されたこの分厚い本を僕は、読み終えたくないから
毎日少しづつ少しづつ、チビチビと読んでいる。
そんなスピードで読んでいて、たまたま今回のタイミングで
『ほろよひ人生』を共通項としてスピッツと大瀧さんが僕の中で繋がる。

すごくビックリして、その次にとても嬉しかった。
“自分勝手な偶然” に喜びを見出す。

これもまたご褒美、だったのかもしれない。

2016年4月24日日曜日

wilsonic works 61


モノブライト、2年半振りのオリジナル・アルバム、『Bright Ground Music』
4月20日に発売された。昨年ドラマーが抜け、3人体制となってから初めてのアルバム。
僕は共同プロデューサー、ディレクターとしてアルバム全体に関わった。

2007年のメジャー・デビュー以来、エンターテイナー精神溢れる
ステージング、独自の言語感覚を駆使する歌詞、変幻自在なメロディで
確固たるポジションを築き、熱狂的なファンを獲得してきた彼ら。
今回僕が参加するにあたり、これまで培ってきた彼らのやり方を尊重し、
その上で新しいことが出来たら、と思って進めてきた。

まず何よりも今までと違うのは、ドラマーがいない、ということだ。
ドラマー、誰がいいだろう?
モノブライトのデモテープを聴きながらあーだこーだと考えていると、
彼らの曲、跳ねないスクエアなエイトビートが多いことに気づく。
そこでひらめいた僕は、あるとき頭に浮かんだドラマーの名前をメンバーに告げると、

「え、藤井寿光さんって、元ANATAKIKOUのですか?」

と、旧知の仲であり、しかもメンバーが大好きなドラマーだということが判明。

「藤井さんに叩いてもらえたら最高です」

とのことで、その場で藤井くんに電話して、ドラムの依頼をして快諾を得た。

この経緯だけで今回のレコーディング・プロジェクトは良いものになる、
という予感ひしひし。

ま、考えてみればANATAKIKOUもモノブライトもXTC大好きバンド、
交流があって当然なのだった。

その次に、アレンジャー。
大半の曲はメンバーでプリプロしてアレンジがほぼ固まっていたが、
数曲は白紙状態。
ここ数作はメンバーのセルフ・プロデュースで進めてきたので、
アレンジャーと作業することがなかったモノブライトに、
これらの曲で新鮮なアイディアをもらうのもありなんじゃないか、
ということで推薦したのが、
SSWでもあるマルチ・ミュージシャン、橋口靖正

彼には3曲でメンバーと共同アレンジ、管と弦のアレンジを1曲ずつ、
鍵盤やタンバリンなど、やれることはなんでもやってもらった。
モノブライトの音楽の引き出しを増やしてもらうことが出来たけど、
彼が現場に来ると笑いがいつもの3倍くらいになるのがいいね。

実は、橋口くんとは数年前から知り合いではあったし、ライヴを
拝見したりはしていたが、レコーディングでご一緒するのは今回が初。
藤井寿光とは、ドラムテックとして仕事したことはあるが、
ドラマーとしては今回が初。
モノブライトのおかげで、機会があったら一緒にやりたい人たちと仕事が出来て、
俺得な現場でもあったわけ。

エンジニアは、僕もモノブライトも共通して信頼している三上義英さん。
彼が最終的にミックスしてくれる、という安心感が、レコーディングに
おいてリラックスできる材料になっていたことは確か。

結果、これまでのモノブライト成分は確実に残しつつ、
今まであまりクローズアップされていなかった側面が垣間みられる
アルバムになったのではないだろうか。

とかちょっと当たり障りない物言いっぽいけど、
僕、このアルバム大好きなんですよ。
自分が関わっていながら(いや、いるからこそ)、すげー好き。
モノブライトというキャリアがあるバンドの、30代バンドマンの、
パーソナルな魅力が迸っていると思う。
それは歌詞やヴォーカルだけではなく、ベースやギターの演奏にも。
あなただけにしか鳴らせない音が鳴っているよ。
あとね、ヴォーカルの質感が各曲それぞれで本当にいいよ。ほんとだよ。

そして曲順。
普段は曲順番長で、いろいろ注文をつける竹内だけど、
今回はオレ以上の集中力で曲順を考えてきた桃野くんの提案を100%採用している。
何の文句も無い。
素晴らしい曲順だと思う。
ぜひ、1曲目から通して聴いてほしい。

このアルバムのためのミーティングを始めて間もなくに持った、
このレコーディングがとても良いものになるという予感が、
一回も消えることなく段々と確信に変わっていった。
充実した日々だったなー。
マスタリング、終わりたくなかったもんなー。

って思うくらいに良いアルバムです。
これまでモノブライトを好きだった人も、知らなかったっていう人も、
ぜひぜひチェックのほどを。

ミュージック・ヴィデオも充実。
まるで音のダイヤモンドダストやぁ、というくらいキラキラの「冬、今日、タワー」
ひたすら歌の説得力に感服する「ビューティフルモーニング (Wake Up!)」、
恐いくらいに言葉が刺さってくる「こころ」
モノブライト、カタカナ表記になってから、ちとヤバいっす。

2016年2月20日土曜日

wilsonic works 60


52年生きてきて、人生で初めて書籍に解説を寄せるという仕事をした。
2月20日発売のポール・クォリントンによる小説『ホエール・ミュージック』
これ、ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンのファンにはつとに知られた小説で、
永らく邦訳が望まれていたが、遂に発売に漕ぎ着けた。
主人公のキャラクターが、ある時期のブライアン・ウィルソンにそっくりで、
未完成のアルバムに取り組み続けているという、『SMiLE』を彷彿させる
設定で物語が進んで行く。

主人公を取り巻くバンドのメンバーや登場人物も、もしかしたら
これ、あの人がモデルかな、とか、あの出来事のパロディかな、
と、ビーチ・ボーイズを知っている人をニヤリとさせる場面が
そこかしこに散りばめられている。

そういった、『ホエール・ミュージック』登場人物やエピソードの、
ビーチ・ボーイズとの共通点や相違点の検証などを中心に、解説を
書かせていただいた、というわけだ。

2014年暮れの、ビーチ・ボーイズのアルバム2枚の解説の仕事に続き、
ビーチ・ボーイズを好きだ好きだと言い続けていると、
こんな嬉しいオファーが舞い込んでくることもあるのだなあ、という夢のようなお話。
邦訳が読めるだけでありがたいのに、光栄です、ほんとに。

しかも、訳者は音楽関連書籍の翻訳に定評のある奥田佑士さん、
表紙の装画は本秀康さん、デザインはサリー久保田さんと、
全員信頼出来る音楽アディクトたち。
これで面白いモノにならないわけがない!という環境だった。

実際この小説は、滅法面白い。
著者ポール・クォリントンは、作家であると同時に音楽家でもあり、
自身のバンド、ソロなどいろんな形で音楽を残している。
それゆえ、音楽的知識、ロック史への造詣が深く、
挿入されるエピソードがいちいちリアリティありまくり。
音楽好きな人なら、グイグイ引き込まれるはずだ。
(ビーチ・ボーイズの)史実にしっかり則っているところもあるが、
見てきたような嘘っぱちのエピソードもたくさん仕込まれているのが痛快。

そんなこんなで、この小説を読み解き、ビーチ・ボーイズの
結成から現在までをいろんな資料に当たって再確認するなど、
年明け1月はこの原稿にかかりきりだった。
いろいろ忘れていたことをリマインド出来て良かった。
結果、書きたいことがどんどん増えて、トータル1万字弱という
書籍の解説としては異例なくらいのヴォリュームとなった。
読み応え、あると思います。

ちなみに『ホエール・ミュージック』は小説発表の2年後の1994年に、
本国カナダで映画化されている。挿入曲「クレア」の映像でわかるように、
主人公デズモンドの造形は完璧に1970年代後半のブライアン・ウィルソンだ。
小説の邦訳に続き、この映画も日本でDVD化してくれたら最高なんだけどな。

憶測ですが、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』のスタッフは、
映画『ホエール・ミュージック』、絶対にチェックしてますね。

『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』のBlu-rayとDVDが
発売された直後に『ホエール・ミュージック』が読める幸せ。

『ホエール・ミュージック』を読んでから、マイク・ラヴ率いる
ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソン・バンド、それぞれ3月、4月に
来日公演を観られる幸せな2016年。

そして今年10月には、待望の自叙伝『I am Brian Wilson』が出版される。
邦訳が出るのかどうかわからないけど、とりあえず英語版出たら買う。
Kindle版も買って、辞書機能駆使して読む。
それまでは何がなんでも生き延びるよ。
人生には目標が必要なのだ。

2016年2月5日金曜日

wilsonic works 59


2月3日にリリースされた、さかいゆうのアルバム『4YU』
シングル「ジャスミン」に続いて、ディレクターとして参加した。
アルバムの全曲試聴はこちら

アルバムの方向性や曲選びなどが始まった時点から約1年間、
スタジオ作業がスタートしてから9ヶ月に亘る制作期間だった。

これまで、基本的にセルフ・プロデュースで3枚のアルバムを
作ってきたさかいくんだが、今回はまずそれにこだわらない、
というところからアルバムの構想を一緒に考え始めた。

その結果、蔦谷好位置石崎 光mabanuaAvec Avecといった
サウンド・クリエイター、作詞に渡辺シュンスケ西寺郷太森雪之丞
といった面々が名を連ねる、実に興味深いアルバムに仕上がった。
ある意味、バラバラだし、一貫性は無いかもしれない。
1曲毎にジャンルが違うんじゃないか、とも思える雑食性。

しかし、作曲と歌唱がさかいゆうであることと、アルバム全曲
(既発EP曲「サマー・アゲイン」を除く)のミックスを
molmolこと佐藤宏明が手がけることによる統一感があることも確か。

しかしこのレコーディングはいろんな意味で勉強になった。
彼が所属するオフィス オーガスタという、多くの個性的な
アーティストとたくさんのヒット曲を持つマネージメント&
制作会社の文化に触れることが出来たのがまず大きい。
ヒットに賭ける思いと、アーティスティックであることのバランスとか。

そして、さかいくんという天賦の才を持つ全身音楽家とのやりとり。
日本の音楽界の現状分析、曲に対して選ぶミュージシャンの的確さなど、
自身の歌やプレイ以外でも舌を巻く場面満載ですよ。

レコーディングを通じて様々な凄腕ミュージシャンのプレイを観て、
聴くことが出来たのも財産だなあ。
ドラマーだけでも、あらきゆうこ石若 駿岡野 'Tiger' 諭
玉田豊夢、mabanua、松永俊弥屋敷豪太ってもう!

曲によってはリズム録りからTDまで半年かかった曲もあるなど、
その曲にとって必然となる形を追求し、時間をかけて丁寧に、
でも決して考え過ぎずに(これ重要)作られた『4YU』。
奇跡的な演奏、信じられないくらい良い音のミックスなど、
注目してほしいところはたくさんあるのだが、なによりもやはり
さかいゆうの歌声、これに尽きる。
張りのあるハイトーンから、囁くようなシルキー・ヴォイスまで、
様々な表情を見せるミラクルな声。

コーラス・ワークもすごいよ。
「トウキョーSOUL」の間奏の複雑且つニュアンスに富むコーラスを、
あれよあれよという間に録っていくさまには、口あんぐり。
頭の中に鳴っている、もう出来上がっているものを形にして行く、
ということなんだなあと感心した次第。

というわけで、久々に男性ソロ・シンガーのアルバムを1枚まるごとご一緒した。
最近あまり使っていなかった筋肉を動かした、ような体験だった。

筋肉といえば。
さかいくんのライヴを観ると、彼の音楽的な才能が身体能力と
リンクしていることがよーくわかる。
平気な顔してすごいことやってる。
あれは一度、体験しておいて損は無いと思う。
ツアー、6月〜7月にあります。

p.s.
参考までに。
シングル「ジャスミン」のときのブログはこちら