2016年1月30日土曜日
wilsonic works 58
まさか自分が初恋の嵐の新作に関わることになるとは思わなかった。
1月27日に、初恋の嵐のアルバム『セカンド』が発売された。
その名の通り、彼らにとってのセカンド・アルバム。
前作『初恋に捧ぐ』からなんと13年という月日が経っている。
誰も彼らのニュー・アルバムが聴けるとは思っていなかっただろう。
僕もそんなこと、夢にも思わなかった。
いろんな意味で奇跡的な出来事だと思う。
2001年秋、僕はドリーミュージック内に“Teenage Symphony”という
レーベルを作り、最初にリリースするコンピレイション盤の構想を練っていた。
ライヴ・ハウス・シーン、インディ・シーンで蠢きつつある、
グッド・メロディを奏でるバンドを集めたコンピだ。
収録するアーティストの候補で挙がってきたのが、初恋の嵐。
当時僕の部下だったDくんからの紹介だった。
その時点で既にマネージメントやメジャーからのデビューが決まっていて、
それがまた僕の知り合いばかりで、ということもあり、
ほどなくしてバンドとも親しくなった。
コンピ参加候補曲として「涙の旅路」のデモをもらい、
あまりに良い曲なので嬉しいやら悔しいやら複雑な感情を持ったことを覚えている。
コンピにこの曲が入るのは嬉しいんだけど、他社のアーティストだから
制作とかに関われない、という悔しさ、みたいな感じ。
僕は「涙の旅路」をコンピの1曲目にした。
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その後のことをいろいろ思い出しながら書いてみたのだが、
めっちゃ長くなりそうなのと、ちょっとセンチメンタルになりすぎたので、書き直す。
2002年3月に西山達郎くんの急逝により、活動休止を余儀なくされた
初恋の嵐は、2011年にライヴ活動を再開する。
僕もスケジュールの合うときはなるべく観に行くようにしていた。
2012年にスピッツがカヴァー曲等を集めたコンピ盤『おるたな』を
リリースするに際して、初恋の嵐の「初恋に捧ぐ」を新録音カヴァーした。
これは特に僕が何かをしたわけではなく、スピッツとして純粋に
この曲をカヴァーしたいということで挙がってきた楽曲。
そんなこともあり、2015年、僕が企画したスピッツ『ハチミツ』の発売20周年アルバム
『JUST LIKE HONEY 〜『ハチミツ』20th Anniversary Tribute』に
初恋の嵐にも参加してもらいたいと思い、声をかけた。
以前、初恋の嵐 with Friendsで観た曽我部恵一さんの印象がとても鮮やかで、
多分「君と暮らせたら」だと相当いい形になるんじゃないか、と思った。
その通りになった。
『JUST LIKE HONEY』参加オファーに、初恋の嵐として快諾いただいた後、
逆に初恋の嵐から僕に相談されたのが、今回の『セカンド』の草案だった。
未だ正規に発表されていない西山くんの楽曲をレコーディングする。
しかも、極力生前に残された西山くんのヴォーカルやギターを使う。
当初は5〜6曲程度のミニ・アルバムという構想だった。
そのアイディアを有意義に思った僕は、レコード・メーカーとの
交渉と調整を引き受け、実現に向けて動き始めた。
話はとんとん進み、数週間後には企画にGoが出て、
僕はディレクターとして制作に関わることになった。
そこからいくつもの(本当に)奇跡的な出来事があり、ミニ・アルバムの
予定だった企画アルバムは、全10曲入りの『セカンド』となった。
隅倉弘至、鈴木正敏、木暮晋也、玉川裕高、石垣 窓、高野勲、朝倉真司。
ゲスト・ヴォーカルで参加してくれたフジファブリック山内総一郎、
スクービードゥーのコヤマシュウ、そして堂島孝平。
エンジニアの池内 亮(敬称略)。
参加いただいた皆さんの素晴らしい演奏や歌唱、初恋の嵐への思いが、
アルバム『セカンド』をこのような形にした。
2002年の時点で時が止まっていた音源、素材でしかなかったものに
生命を吹き込み、タイムレスな作品として2016年に「誕生」した音たち。
幸いなことに、初恋の嵐をこれまで愛してくれた人たちにも、
今回の『セカンド』は好評と聞く。
都内CDショップでの大々的な展開を見て、ちょっと胸が熱くなった。
初恋の嵐は、忘れられるどころかどんどんリスナーを増やしている。
今回『セカンド』を知って、初恋の嵐を気に入ったら、
ぜひともファースト『初恋に捧ぐ』など、
これまでリリースされてきた初恋の嵐の名曲群に触れてほしい。
本当に残念なんだけど、集めようと思ったらすぐに全曲集められる。
そして、全ての曲に聴くべき価値を見出すことが出来る。
西山くんが書く曲は、一見とてもとっつきやすいんだけど、
皮肉や悪口やスケベな思いなど、毒ある仕掛け(本音?)がそこここに潜んでいる。
それが人間という生き物のリアルな感情や行動を浮き彫りにする。
『セカンド』収録の多くの曲は、西山くんが20歳くらいの頃に書いたものだ。
カントリー・ロック的な曲、ヘヴィなサイケデリック・チューン、16ビートで
メイジャーセブンス・コードをかき鳴らす曲など、ヴァリエイションも様々。
全曲少しずつ聴けるティーザー映像はこちら。
早熟にして早逝のソングライター、西山達郎の作品は、『セカンド』のリリースで
ほぼ世の中に発表することが出来たことになる。
これを機会に、もっともっと多くの人に、初恋の嵐を知ってほしいと思う。
そして、こんな奇跡的な出来事に巻き込んでもらって、大変感謝している。
隅倉くん、鈴木まーくん、ありがとう。
13年越しで、嬉しいやら悔しいやら複雑な思いに、ケリがついた。