2012年11月30日金曜日
wilsonic works 26
今週11月28日に発売された、大阪を拠点に活動するバンド、
カルマセーキの4thアルバム、『鍵は開けてある』に、
面白い形で参加したので、それに関して。
僕は彼らのライヴを2011年の春くらいに渋谷WWWで初めて観た。
それまでにも、心斎橋のサーキット型フェス「見放題」で
プッシュされていたり、3rdアルバム『秘密計画』に
ANATAKIKOUのまあきこと松浦正樹がプロデューサーで
参加しているなど、共通の知人が多いこともあり、
名前だけは知っていたんだけど、ライヴや音源に触れる機会が
なぜか無かった。
で、ライヴを観て「むむっ!」と思い、その日CDを購入して
家で聴いて更に「むむむっ!」と思ってしまった。
今どきこんなにコーラスを多用するバンドも少ないし、
ポップでいながらちょっとヒネらずにはいられない性(さが)を
持て余してる風情にもシンパシーを感じた。
僕の中のセロファン〜ゲントウキ〜クノシンジのライン上にある音楽。
もしTeenage Symphonyというレーベルが今もあったら、
必ず契約したであろうバンド、なわけです。
つまり、惚れた、と。
遅ればせながらカルマセーキのファンとなった僕は、
彼らが東京に来る際にはなるべくライヴを観に行くように
なり、次にレコーディングする際には、なんか手伝わせてよ、
なんてことを話していた。
この度、念願かなってそれが実現、ということです。
で、面白い関わり方、の件。
今回、『鍵は開けてある』のクレジットに、
armchair directive: 竹内 修 (wilsonic)
と書かれている。
なんのこっちゃ、ですよね?
探偵小説、推理小説用語に、armchair detective、
っていうのがあって。
直訳すると安楽椅子探偵。
現場を一切見ることなく、事実関係と証拠などの情報のみを
頼りに事件を解決する探偵のことを指す。
今回僕は、カルマセーキのアルバム制作を手伝うにあたり、
東京に居ながらにしていかに制作作業を進めるかを考えて、
armchair directive=安楽椅子指示、という方法を試してみた。
いや、この肩書き自体は最後に考えたんだけど。
やり方は至極シンプル。
彼らが作ったデモのファイルを送ってもらい、
それに対して僕の意見をメールで返す。
僕の意見を反映してデモを作り直してもらい、
それをまた送ってもらう。
これの繰り返しで、曲をブラッシュアップして行く。
最初はこのやり方、結構大変なんじゃないかなー、
と思っていたんだけど、これが意外とスムーズで。
それもこれも、カルマセーキのメンバーの理解力の高さゆえ。
僕が伝えたことを、100%受け取り、しかも僕が思っていた
以上のレシーヴ(もしくはスマッシュ)を返してくる。
そうなるとこちらも更にエンドルフィンが分泌され、
より面白いアイディアを出したくなるのが人情ってもんで。
詞、曲、アレンジ、構成、楽器のセレクトなど、曲によって
いろんなことを提案し、彼らはそれを全て試し、
最終的に採用するかしないかは彼らの判断にお任せした。
実際のレコーディングには、リズム録りのときに1回だけ顔を出した。
ちょうど大阪にライヴ・イヴェントを観る用事があって、
その翌日、京都でレコーディングを始めたばかりの彼らを激励に。
CHAINSのラリー藤本くんが経営するマザーシップスタジオへ。
暑かったなー、真夏の京都。
そこからは、レコーディングで進展のある度にファイルを
送ってもらって、確認しつつという感じ。
最終的な質感に関して少し意見した程度で、基本的に
彼らのセルフ・プロデュースで進めてもらった。
これが、今回の ”armchair directive” の流れ。
自分にとっては非常に貴重な体験だった。
お互いの理解と信頼があれば、直接話し合ったり
一緒に音を出したりしなくても、ある程度貢献出来る、
ということがわかったんだから。
なので、全国全世界の皆さま、竹内と仕事したいけど
東京にいないから無理だ、なんてことを悩む必要は
ありません。遠く離れていても、共同作業は出来ますよ。
そして。
関わっておきながら自分で云うのもなんですが、
カルマセーキ『鍵は開けてある』は、彼らの最高傑作だと思います。
メンバーチェンジ後、最強の4人となった彼らが真摯に音楽に向き合い、
そこにwilsonicの魔法の粉を少し振りかけさせていただいた、
極上のポップ・アルバム。
アルバムのラストに収録されたリード曲、
「サガポー・ティアモ・ラヴャ」のMVはこちら。
ホント名曲。
自然体の映像もいいね。
こんな音楽が、音楽好きの人たちにしっかりと届けば、
まだまだ音楽をめぐる状況はいろいろやりようはある、
と思うんだけどな。
甘いかな。
p.s.
そうそう、『鍵は開けてある』の曲順について。
メンバーが考えたものを僕なりに少し変えて提案したら、
それが採用されたんです。自慢です。
めっちゃ流れがいいっすよ。
それぞれの曲の「役割」がきっちりと見えるとはず。
タニザワトモフミ『日本に落ちてきた男』で、
曲順考案者という仕事を請け負っただけのことはある。
はず(その経緯はこちらのエントリ参照ください)。