2015年6月29日月曜日

wilsonic works 49


松本隆 作詞活動45周年トリビュート『風街であひませう』が、6月24日に発売された。
『風街でうたう』と題されたディスクに、草野マサムネ(スピッツ)の歌う
「水中メガネ」が収録されている。

「水中メガネ」のオリジナル・シンガーは、アート・ディレクション集団である
グルーヴィジョンズが作り出したキャラクター、Chappie(チャッピー)
1999年の七夕、7月7日に彼女?の3rdシングルとしてリリースされた。
作詞はもちろん松本隆、作曲は草野正宗(作詞作曲のときは漢字表記)。
なので、作詞家松本隆へのトリビュートであると共に、
草野にとってはセルフ・カヴァーでもある。

草野が他のシンガー、アーティストに提供した楽曲の中でも、
個人的にぜひともセルフ・カヴァーしてほしいと思っていた
曲なので、感慨もひとしお。

僕は今回、ヴォーカル・ディレクションでこの曲に参加した。

ヴォーカル・ディレクションは、通常「歌入れ」と呼ばれる作業。
これまでもスピッツがセルフ・プロデュースでレコーディングする
際は、ほとんどの場合僕が歌入れを行ってきているので、
今回もその延長線上の流れ。

歌入れのエンジニアは古賀健一くん。
現在はフリーランスのエンジニアとして活躍しているが、
かつて青葉台スタジオに所属しており、スピッツの
レコーディングで何度もアシスタント・エンジニアを務めてくれた。
スタジオは彼のプライヴェート・スタジオであるXylomania Studio。
ここでの作業は草野も僕も初めてで、草野にとってはかなり久々の
レコーディングだったが(スピッツの「雪風」は「水中メガネ」の後に録音した)、
非常にスムーズだった。

『風街であひませう』アルバム全体のサウンド・プロデューサーである
鈴木正人さんの、オリジナル(Chappie版)から大幅にアレンジを変えず、
よりアコースティックな質感を追求した美しいオケも、歌入れがスムーズに
進んだ要因だろう。
アルバム収録の他の曲も、大半が鈴木さんのアレンジで、統一感がある。
個人的には安藤裕子小山田壮平&イエロートレインにグッときた。

さて、冒頭のほうに「水中メガネ」は草野にセルフ・カヴァー
してほしい曲だった、というようなことを書いたが、
そう思った要因のひとつに、1999年に開催された「風街ミーティング」がある。
松本さんの作詞活動30周年を記念して、渋谷ON AIR EAST(現在の
O-EAST)で11月9日、10日の2日間に亘って開催されたイヴェントだ。

草野マサムネは初日9日にシンガーとして参加し、
原田真二の「タイム・トラベル」と「水中メガネ」を歌った。
これがね、良かったんですよ。しみじみと。
自分のメロディ、他人が付けた歌詞、それを歌う草野、
という珍しい組み合わせが、不思議な効果を醸していた。

それ以来、スピッツでいつかセルフ・カヴァーできないかなあ、
なんて思っていたのだ。

それにしてもこの、風街ミーティングで歌った2曲の松本隆
作詞作品が、その後1曲はスピッツで、1曲は草野がシンガーとして
参加する形で音盤になるとは。
しかも、すぐ後じゃなくて、10年以上を経て。

少年時代に聴いた曲をずっと好きでいる草野にもブレが無い。
そして、松本さんが、草野と作った「水中メガネ」という楽曲を
大切に思い続けてくれているからこその、今回なのだろう。
長い年月が経って、更に想いが強くなったり、確信したりすること、
あるものね。


ところで、Chappieによる「水中メガネ」。
僕は当時このレコーディング、それこそ歌入れに立ち会っている。
ChappieのディレクターだったHさんから、歌入れの日時を
伺っており、「お時間あれば・・・」とお誘いいただいていたのだ。
一応、今もこの歌を歌ったのは誰か、というのは公式には
伏せられているのだが、僕は誰だか知っている上に、
ご本人が歌っている姿を拝見しているのである。
これ、相当レアな体験だったなと、16年後の今、思う。