2015年3月24日火曜日
wilsonic works 45
スピッツが2013年9月に横浜赤レンガパークで行った一夜限りのコンサート
“横浜サンセット2013” を映画化した『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』が、
3月21日の横浜ブルク13を皮切りに全国で順次公開される。
3月28日からは、新宿バルト9で公開。
最近音楽と映画のコラボレーションが活発で、洋邦新旧問わず様々な
アーティスト、バンドの映画が製作され、公開されている。
このスピッツの映画には、ドキュメンタリー、密着、証言などは一切ない。
ただただ、当日の様子を出来る限り忠実に再現する目的で
つくられた「コンサート映画」だ。
たった一日限り、スピッツにとって16年振りの大型野外公演とあって、
約15,000枚のチケットに、何倍もの応募が殺到した。
プラチナチケットを手に出来なかったファンにとっては幻のコンサートだった。
2013年から2014年にかけて行っていた『小さな生き物』のツアー先の会場で、
僕の顔を知るスピッツ・ファンの方から、「『横浜サンセット』の商品化、
をお願いします」と懇願されたことも何回かあった。
しかし、この日のステージ、演奏や歌でいくつか大きなミスがあったのだ。
それがどうにも商品化という決断に至らなかった原因のひとつ。
曲をカットしたり、演奏を直したりということも、
このスペシャルなコンサートの意味合いからして考えられなかった。
昨年、『小さな生き物』のリリースに絡むツアーが全て終了した後、
横浜サンセットの映像素材をどうするかをメンバー、スタッフで考えた。
その結果が、
“ミスも含めてその日のそのままをノーカットでまるごと見せるコンサート映画”
という結論だ。
DVD、Blu-ray等のパッケージにはせず、劇場公開オンリー。
より詳しい経緯は、映画のパンフレットに様々なスタッフの
証言があるので、そちらを参照してほしい。
ところで。
前にこのブログでも書いたけど、映画における「ディレクター」は監督のこと。
この映画の監督は、スピッツのライヴ映像作品を多く手掛けている番場秀一。
僕がいつもスピッツの仕事でクレジットされている「ディレクター」
を使うと、監督と間違われちゃうので、この映画での僕の肩書きは
便宜上「サウンド・ディレクター」ということになっている。
こういうときのディレクターの悲哀と喜びについて記しておこう。
このような映画やDVDなど、ライヴ映像作品を作るとき、
僕は当日のステージの模様を生で観ることが出来ない。
横浜サンセットの当日も、僕は音中車(音声中継車)と呼ばれる車の中で、
録音されている音を、ステージの映像を観ながらチェックしていた。
ライヴ・レコーディングにおけるディレクターの仕事とは、こういうものなのだ。
つまり、僕はスピッツのこれまで商品化されたライヴ映像を、生で観たことがない。
ちょっと悲しいんだけど、考え方を変えたら、ライヴ会場の音ではなく、
クリアに録音されたメンバーの演奏をリアルタイムで聴くことが出来るのは、
エンジニアと音中車のスタッフと僕だけ。
なんという特権なんだ!(少し強がってます)
最後にまた映画の話に戻って。
これまで、スピッツのライヴ映像をVHSやLDを経て、
DVDやBlu-rayに定着させる作業を幾度となく行ってきて、
それなりのノウハウは経験してきたつもりだった。
でも、映画はそれらとは全く勝手が違っていた。
2月某日、出来上がった映画を深夜の映画館で、メンバーと共に
コンサート・スタッフや映画スタッフとチェックした。
意味合い的には「完成試写」くらいのつもりでいたのだが、問題勃発。
スタジオでは迫力ある音像だったのに、このとき映画館で流れた音は、
全くパワーが足りないものだった。
これではライヴを追体験する映画にならない。
音を作り直すことになった。
ミキシング・エンジニアやMAエンジニアによる試行錯誤と
ブラッシュアップの作業が毎日のようにあり、日に日に
音質は向上して行った
多くのスタッフのアイディアと惜しみない尽力のおかげで、
なんとか公開までに完璧な音像を作ることが出来た。
演奏だけではなく、映画の中の全ての「音」が生々しく響くものに。
映画(映画館)における音作りは、本当に奥深い。
ということで、『横浜サンセット 2013 -劇場版-』は、
映画館ならではの大画面と大音量でスペシャルなコンサートを
観るという、今までにない体験が出来る映画です。
お近くの映画館でかかったなら、ぜひ。
p.s.
『横浜サンセット 2013 -劇場版-』は、パッケージ化の予定はありませんが、
その後行われたSPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物” の
大宮公演を収録したライヴ映像商品、『JAMBOREE 3 “小さな生き物” 』が
7月1日に発売されることが発表されました。
映画に続き、現在これの編集やらトラックダウンなどの作業を進めている最中です。
ご期待ください。