2013年9月10日火曜日

wilsonic works 36


本日9月10日は、スピッツの約3年ぶり14枚目のオリジナル・アルバム、
『小さな生き物』の店頭入荷日。
スピッツのディレクターとなって23年。
今回のレコーディングはいつにも増して密度が濃かった。

でも今日はレコーディング時のエピソードとかではなく、
このアルバムが初の複数形態でのリリースになった
経緯というか、メンバー含めて考えていたことを書いてみたいと思う。

スピッツは、これまで初回限定のスリップケース仕様などはあったけど、
いわゆる複数形態でのリリースはしてこなかった。
ところが今回は通常盤、期間限定盤、デラックスエディション、
アナログ盤という4形態同時リリース。
期間限定盤とデラックスエディションには、DVDとBlu-rayの
2種類があるから、厳密に云えば6形態が存在することになる。
アート・ディレクターのセントラル67木村くん、煩雑な作業お疲れさまでした!
それぞれの仕様の違いはこちらを参照ください。

なんで今回こういうリリースになったかというと、
パッケージ・メディアがこの先どうなって行くか、
非常に微妙なところに来ているから、という理由がいちばん大きい。
メンバーにしても僕にしても物心ついたときからこれまで、
アナログ(もしくはカセット・テープ)からCDへの変遷はあれど、
パッケージ購入を基本として音楽と接してきた。

ところがレンタルCD、着うた〜フル、iTunes Store等のDL、
Music Unlimited等のストリーミング・サーヴィス、
そしてYouTubeやニコニコ動画などの動画サーヴィス・・・。
2013年現在、音楽に接する手段や方法は合法違法ひっくるめてさまざまだ。

こうなってくると、リリースの方法は何が正解なのかもわからない。

その上。
大体3年に1枚のペースでオリジナル・アルバムを出しているスピッツ、
『小さな生き物』の次、15枚目のアルバムは3年後としたら2016年。

その時、パッケージ・リリースの可能性はいかほどか?
CDは存続しているか?
代わりとなるメディアが出現しているのか?

もしかしたら『小さな生き物』が最後のフィジカル・リリースとなる、

かも・・・?

パッケージ・メディアを出せるうちにやれるだけのことをやってはどうか、
と考えて、今回のような複数形態でのリリースと相成った。

では、どこまでのことをやるべきか?

僕がひとつの目安としたのは、The Beach Boysの『SMiLE Sessions』
2011年にリリースされたこれは、オリジナル・アルバムではなく
『SMiLE』という1967年に未発表に終わった幻のアルバムを、
可能な限り再現するというプロジェクト。
ライトなファンには1CDもの、少し興味がある人には2CDの
デラックス・エディション、ディープなマニアには、5CD+2LP+7inch×2の
コレクターズ・ボックス、そして2枚組アナログLPという4種類が用意されていた。

スピッツで今回のようなリリースをしようと決めた際に気をつけたのは、
全てのコンテンツをコンプリートするためには複数形態を購入しなければ
ならない、という事態にならないこと。
デラックスエディションを購入しても期間限定盤のAタイプを
買わないと聴けない音源がある、とかそういうの。
スピッツの『小さな生き物』は、基本的にデラックスエディションを
購入すれば他のアイテムを購入する必要はない。

もちろん、DVDとBlu-rayを両方欲しいという方はお好きにどうぞ、
というか、僕は上記『SMiLE Sessions』の全てのタイプを
購入したし、モノによってはUS盤とUK盤も押さえるという
駄目なタイプの人間ですので・・・。

あ、ちなみに『SMiLE Sessions』には、本物のサーフボード付き
という究極のセットがありまして、なんと売値は日本円で60万円弱。
当時、僕を知る多くの方から「竹内、あれ買ったよね?」とニヤニヤ
しながら尋ねられましたが、さすがの僕もこれは買わなかった。
っていうか日本への送料だけでいくらかかるんだよ!
(いや、ツッコミどころはそこじゃねえだろ)

ボーナス映像に興味がないなら通常盤を買えばいいし、
ライヴ映像とかは要らないけど、MV観たいなー、なら
期間限定盤、全部欲しいならデラックスエディション、
ということ。

これは以前にライヴ映像商品でも書いたことなんだけど、
もしBlu-rayを視聴出来る環境にあるなら、価格は高くなるが、
DVDではなく、Blu-rayヴァージョンがおすすめ。
映像も音もBlu-ray基準で作っているので、その解像度は圧倒的に違う。

そしてそして。
本末転倒な気もするのだが、CDで『小さな生き物』を聴いた後、
Blu-rayで収録曲のMVを観て(聴いて)比べてほしい。
16bit/44.1kHzのCDと、24bit/96kHzのBlu-ray、音が全然違うから!

こんな、音や映像へのこだわりがどこまで届くのかわからない。
でも、そういう試みが出来る環境にあるなら、
出来る限りのことを試したい。
スピッツは常にそう考え、レコーディング、ミックスダウン、
マスタリング、プレスまで妥協することなく辛抱強く対峙する。
それを確認出来る環境にあるのなら、ぜひともそういう「違い」を
楽しんでほしいなあ、と思うわけです。

あと、今回は同時発売となったアナログ盤。
今回も2枚組で曲順はCDと随分変えてある。
CDはStephen Marcussenのマスタリングだが、
アナログは小鐡徹さんのカッティング。
つまり、最終的な落としどころで全く違う人が関わっているので、
基本的な音の質感がまるで違う。

加えて最終D面には贅沢にボーナス・トラック「エスペランサ」
1曲のみが刻まれている。
外周だけを使った音の良さ、たまらないっすよ!
あと、実はアナログでしか聴けない密かな仕掛けが
いくつかあるのですが、それは聴いた人のお愉しみ、
ということで、ぜひとも発見してみてください。

あー長くなった。

でもあともう少し。

絶賛発売中のデザインとグラフィックの総合情報誌『MdN』10月号で、
『小さな生き物』が巻頭特集として組まれている。
アート・ディレクターの木村豊による今回のジャケットの作り方
とか、これまで10作を手がけてきた木村くんによるジャケットの、
マサムネからのコメントなどなど。
僕、竹内はこの特集の序文を書かせてもらった。
商業誌に依頼されて文書を書くこと自体、えらい久しぶりで
どうなることかと思ったけど、名誉なことだと思ったので引き受けた。
どうやら売れ行きも上々のようなので、気になる方はお早めに
手に取っていただけたら、と。

あと、東京近郊にお住まいの方にお知らせ。
本日9月10日から9月29日まで、タワーレコード渋谷店8F、
「space HACHIKAI」にて、『スピッツ 小さな生き物展』が
開催されます。
詳細はこちらを参照いただくとして、今回のジャケットを飾る
リリエンタールのグライダーの実物を始め、『小さな生き物』、
スピッツにまつわる様々なモノがご覧いただけます。

あと、壁の一角には、僕が綴った今回のアルバムのスタートから
フィニッシュまでの『小さな生き物 制作メモ』が貼られています。
制作の流れからエピソードまで、結構読み応えあるのでぜひ
読んでみてください。
先ほど書いたアナログ盤のヒミツもここでこっそり明かされています。

今回このエントリでレコーディングの内容等に触れないのは、
この『小さな生き物展』での制作メモをチェックしてほしい、
というのがあるからなのでした。

そして、一般店舗では買えないアナログ盤も、数量限定、
つまり早い者勝ちではありますが、買えます。
確実にゲットしたい方は、お早めに!

最後に。

『小さな生き物』は、2012年から2013年にかけてレコーディングされた、
たった今現在のスピッツにしか鳴らせない音、歌えない言葉が詰まっている。
僕はその一部始終を一緒に体験出来たことを非常に嬉しく、誇りに思う。
スピッツと共に作り上げた亀田誠治さん、高山徹さんはじめ、
関わっていただいた全てのスタッフに感謝しつつ、
この長いエントリを終えたいと思います。