2016年2月20日土曜日
wilsonic works 60
52年生きてきて、人生で初めて書籍に解説を寄せるという仕事をした。
2月20日発売のポール・クォリントンによる小説『ホエール・ミュージック』。
これ、ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソンのファンにはつとに知られた小説で、
永らく邦訳が望まれていたが、遂に発売に漕ぎ着けた。
主人公のキャラクターが、ある時期のブライアン・ウィルソンにそっくりで、
未完成のアルバムに取り組み続けているという、『SMiLE』を彷彿させる
設定で物語が進んで行く。
主人公を取り巻くバンドのメンバーや登場人物も、もしかしたら
これ、あの人がモデルかな、とか、あの出来事のパロディかな、
と、ビーチ・ボーイズを知っている人をニヤリとさせる場面が
そこかしこに散りばめられている。
そういった、『ホエール・ミュージック』登場人物やエピソードの、
ビーチ・ボーイズとの共通点や相違点の検証などを中心に、解説を
書かせていただいた、というわけだ。
2014年暮れの、ビーチ・ボーイズのアルバム2枚の解説の仕事に続き、
ビーチ・ボーイズを好きだ好きだと言い続けていると、
こんな嬉しいオファーが舞い込んでくることもあるのだなあ、という夢のようなお話。
邦訳が読めるだけでありがたいのに、光栄です、ほんとに。
しかも、訳者は音楽関連書籍の翻訳に定評のある奥田佑士さん、
表紙の装画は本秀康さん、デザインはサリー久保田さんと、
全員信頼出来る音楽アディクトたち。
これで面白いモノにならないわけがない!という環境だった。
実際この小説は、滅法面白い。
著者ポール・クォリントンは、作家であると同時に音楽家でもあり、
自身のバンド、ソロなどいろんな形で音楽を残している。
それゆえ、音楽的知識、ロック史への造詣が深く、
挿入されるエピソードがいちいちリアリティありまくり。
音楽好きな人なら、グイグイ引き込まれるはずだ。
(ビーチ・ボーイズの)史実にしっかり則っているところもあるが、
見てきたような嘘っぱちのエピソードもたくさん仕込まれているのが痛快。
そんなこんなで、この小説を読み解き、ビーチ・ボーイズの
結成から現在までをいろんな資料に当たって再確認するなど、
年明け1月はこの原稿にかかりきりだった。
いろいろ忘れていたことをリマインド出来て良かった。
結果、書きたいことがどんどん増えて、トータル1万字弱という
書籍の解説としては異例なくらいのヴォリュームとなった。
読み応え、あると思います。
ちなみに『ホエール・ミュージック』は小説発表の2年後の1994年に、
本国カナダで映画化されている。挿入曲「クレア」の映像でわかるように、
主人公デズモンドの造形は完璧に1970年代後半のブライアン・ウィルソンだ。
小説の邦訳に続き、この映画も日本でDVD化してくれたら最高なんだけどな。
憶測ですが、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』のスタッフは、
映画『ホエール・ミュージック』、絶対にチェックしてますね。
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』のBlu-rayとDVDが
発売された直後に『ホエール・ミュージック』が読める幸せ。
『ホエール・ミュージック』を読んでから、マイク・ラヴ率いる
ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソン・バンド、それぞれ3月、4月に
来日公演を観られる幸せな2016年。
そして今年10月には、待望の自叙伝『I am Brian Wilson』が出版される。
邦訳が出るのかどうかわからないけど、とりあえず英語版出たら買う。
Kindle版も買って、辞書機能駆使して読む。
それまでは何がなんでも生き延びるよ。
人生には目標が必要なのだ。
2016年2月5日金曜日
wilsonic works 59
2月3日にリリースされた、さかいゆうのアルバム『4YU』、
シングル「ジャスミン」に続いて、ディレクターとして参加した。
アルバムの全曲試聴はこちら。
アルバムの方向性や曲選びなどが始まった時点から約1年間、
スタジオ作業がスタートしてから9ヶ月に亘る制作期間だった。
これまで、基本的にセルフ・プロデュースで3枚のアルバムを
作ってきたさかいくんだが、今回はまずそれにこだわらない、
というところからアルバムの構想を一緒に考え始めた。
その結果、蔦谷好位置、石崎 光、mabanua、Avec Avecといった
サウンド・クリエイター、作詞に渡辺シュンスケ、西寺郷太、森雪之丞
といった面々が名を連ねる、実に興味深いアルバムに仕上がった。
ある意味、バラバラだし、一貫性は無いかもしれない。
1曲毎にジャンルが違うんじゃないか、とも思える雑食性。
しかし、作曲と歌唱がさかいゆうであることと、アルバム全曲
(既発EP曲「サマー・アゲイン」を除く)のミックスを
molmolこと佐藤宏明が手がけることによる統一感があることも確か。
しかしこのレコーディングはいろんな意味で勉強になった。
彼が所属するオフィス オーガスタという、多くの個性的な
アーティストとたくさんのヒット曲を持つマネージメント&
制作会社の文化に触れることが出来たのがまず大きい。
ヒットに賭ける思いと、アーティスティックであることのバランスとか。
そして、さかいくんという天賦の才を持つ全身音楽家とのやりとり。
日本の音楽界の現状分析、曲に対して選ぶミュージシャンの的確さなど、
自身の歌やプレイ以外でも舌を巻く場面満載ですよ。
レコーディングを通じて様々な凄腕ミュージシャンのプレイを観て、
聴くことが出来たのも財産だなあ。
ドラマーだけでも、あらきゆうこ、石若 駿、岡野 'Tiger' 諭、
玉田豊夢、mabanua、松永俊弥、屋敷豪太ってもう!
曲によってはリズム録りからTDまで半年かかった曲もあるなど、
その曲にとって必然となる形を追求し、時間をかけて丁寧に、
でも決して考え過ぎずに(これ重要)作られた『4YU』。
奇跡的な演奏、信じられないくらい良い音のミックスなど、
注目してほしいところはたくさんあるのだが、なによりもやはり
さかいゆうの歌声、これに尽きる。
張りのあるハイトーンから、囁くようなシルキー・ヴォイスまで、
様々な表情を見せるミラクルな声。
コーラス・ワークもすごいよ。
「トウキョーSOUL」の間奏の複雑且つニュアンスに富むコーラスを、
あれよあれよという間に録っていくさまには、口あんぐり。
頭の中に鳴っている、もう出来上がっているものを形にして行く、
ということなんだなあと感心した次第。
というわけで、久々に男性ソロ・シンガーのアルバムを1枚まるごとご一緒した。
最近あまり使っていなかった筋肉を動かした、ような体験だった。
筋肉といえば。
さかいくんのライヴを観ると、彼の音楽的な才能が身体能力と
リンクしていることがよーくわかる。
平気な顔してすごいことやってる。
あれは一度、体験しておいて損は無いと思う。
ツアー、6月〜7月にあります。
p.s.
参考までに。
シングル「ジャスミン」のときのブログはこちら。
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