2014年8月6日水曜日

wilsonic works 40


wilsonicのお仕事、記念すべき40作目は、滋賀出身、京都を拠点に
活動する若きバンド、ウルトラタワーのデビュー・ミニアルバム。
タイトルは『太陽と月の塔』
全6曲、プロデュースに全面的に関わった。

まだ22、23歳という若さながら、バンド歴は7年目を数える。
メンバーのうち3人が中学校のときに結成した前身バンドに、
他校でひとつ歳上のドラマーを迎え入れて、ウルトラタワーが始まった。

マネージメント・サイドから、彼らのことを聞いたのは昨年夏。
いくつかの曲を聴かせてもらって、そのメロディのキャッチーさに唸った。

その後いくつかのミーティングを経て、正式にプロデュースすることになり、
昨年12月から本格的にデビュー盤のための準備を始めた。

ウルトラタワーの曲作りはちょっと面白い役割分担になっている。
基本、作曲がヴォーカルの大濱、作詞がギターの寺内、という枠組み。
逆パターンは結構あるけど、歌う人が作詞をしないというのは珍しい。
しかも寺内の書く詞は、ストーリーやイマジネーションに溢れた
今どきあまり類を見ないファンタジックな作風で、非常に個性的なものだ。

まずメロディを大濱が作り、それに対して寺内が詞をつけていく
(以前は詞が先のことが多かったようだ)。
ひとりだけで作詞作曲を完結させない形は、うまくいくと
とんでもない化学変化が起こる可能性がある。
逆に、お互いが全く違うことを考えていると、
見るも悲惨な結果を招くことになる。

今回、新曲を作るに当たって僕がいちばん丁寧に扱ったのは、
この部分。曲作りのリレーション、その交通整理だ。

作曲者、ヴォーカリストは作詞をする人の考えや物語を読み取り、
作詞者は作曲者のメロディの意図を考慮し、ヴォーカリストの
歌いやすさを考える。
こういう思慮深さも大切だし、違和感があるときは伝え、
主張すべきことははっきりと云う、というような姿勢も非常に重要。

これ、自分で全部書いて歌う人は、知らず知らずのうちに
(もしくは自覚的に)やっていたり、お互いの立場を少しずつ
譲り合ったりしてるんだけど、分業になるとそれぞれ自分で
精一杯でだったり遠慮したりで、うまく伝わらない場合が多い。

70年代の歌謡曲などを聴くとその素晴らしき分業制がよくわかる。
「このシンガー」のために、
「作詞家」がこのテーマで詞を書き、
「作曲家」がその言葉にこういうメロディを付け、
「編曲家」がこういう楽器を使ってこんなイメージにした、
ということが。

忘れがちだけど、シンガー・ソングライターだって基本は同じ。
上記のような分業制を踏まえておかないと、
自分に甘いジャッジしかできなくなる。

この文字数だと元々のメロディを変化させないとうまく乗らない。
じゃあ変えちゃえって簡単に変えてしまい、元々持っていた
良いメロディを崩してしまったり。
その言葉をこのメロディに乗せたらイントネーションが
おかしくなるけどまあいいや、とか。
この音符の長さでその言葉だと歌いにくいけど、ガマンすればいいよね、とか。

このような妥協は曲の純度を下げてしまうだけだ。

歌詞とメロディの関係には、いろんなルールがある。
別に絶対に守らなければいけないわけじゃないけど、
ルールは知らないより知っていたほうがいい。
知った上でわざと破ったり踏み外したりするのは「個性」。

ウルトラタワーがせっかく作詞作曲を分業しているので、これを
更なる強みにするため、上記のようなことをあーだこーだと
レクチャーしながら曲作りをサポートした。
2ヶ月くらいかけていろんなことを共有して出来上がったのが
「RUBY SPARKS」と「星降る街」。
他の4曲は自主制作のCDに収録したことがあったり、
何らかの形で曲として出来ていたものを新たに録り直したものだ。

関わっている僕が云うのもなんだけど、本当によく練り上げられた
曲が揃っているミニアルバムだと思う。
タイトなリズムと2本のギターのアンサンブルが基本。
そこに大濱のちょっとハスキーで印象的なヴォーカル。
彼のハイトーン・ヴォイスはウルトラタワー最大の武器だ。
ピアノやストリングスを入れた壮大な作品もあり、
ロック・ファンだけではなく幅広い層に指示され得る音楽が鳴っている。

オフィシャルで全曲少しずつ聴けるのでよろしければぜひ。
あと、映画『ハイキック・エンジェルズ』等で活躍中の
宮原華音さんをフィーチュアした「RUBY SPARKS」のMVはこちら。
僕のことも少しふれているバンド初のインタヴュー記事はこちら。


以下はちょっと違う角度から。

実は初めてマネージメント・サイドから彼らのことを紹介されたとき、
僕は彼らの曲を聴くのは初めてだと思っていた。
しかし違っていたのだ。
家に帰って調べると、僕は彼らが2010年にリリースした
1stシングル「Little Globe」を持っていた。
いったい何処でいつ購入したのかさっぱり覚えていない。
しかし、改めて聴くと、曲だけはしっかり覚えていた。
非常に強い曲だったので印象に残っていたのだ。

今回のウルトラタワーとの出会い(再会)と、その後の進行具合は、
そんな偶然とか必然とかがない交ぜになった、いろんな「縁」があった。

まず、マネージメントは僕がクノシンジくんでご一緒した方が関わっている。
レコード会社の制作責任者は、かつてポリドールでスピッツのデビューの
ときに販促マンとして関わってくれた同僚。
上記2名、ともに僕と同い歳の50歳。

エンジニアは僕のたっての希望でmixmixの佐藤雅彦さん。
彼とは99RadioServiceのシングルでご一緒して以来。
いろいろお骨折りいただいたが、結果的に全員が満足する
音に仕上げてもらった。感謝してもし切れない。

2曲のストリングス・アレンジには信頼の竹内印、棚谷祐一さん。
スピッツ、セロファン、ゲントウキ、クノシンジ、おとぎ話、
LOST IN TIMEと、竹内の数々のお仕事に関わってもらった
棚谷さんに久々にご登場願い、素晴らしい弦のスコアを書いていただいた。
そして超久々に生ピアノも。
現場ではいろいろトラブルありご心配おかけしましたが、仕上がり最高!

avexのディレクター氏が今回のアートワーク周りのスタッフとして
ピックアップしたのが、阿萬企画の阿萬智博さん。
1996年頃からグルーヴァーズのジャケットでお世話になり、一時期
相当ガッツリ仕事をさせてもらった仲。
この人選にはホントにビックリした。

何かが起きるときは、このように誰が仕組んだわけでもなく、
後から考えればあーなるほどねー、なんていう「必然」が
あちこちに転がっているものなのだ、と思った次第。

ということで、ウルトラタワー、デビューおめでとう。
これからいろんな面白いこと、起こしていこう。