2014年3月9日日曜日

wilsonic works 38


今週3月5日に、新人シンガー・ソングライター岡本愛梨
ミニ・アルバム『敏感なアンテナ』と配信シングル「アタシ劇場」が発売された。
僕はこの両方に共同プロデューサー&ディレクターとして関わっている。

wilsonic竹内は女性アーティストとの仕事が少ない。
フリーランスになってからは高杉さと美さんのアルバムの
中の1曲をプロデュースしたのと、東京カランコロン
女性ヴォーカル、せんせいと仕事したことがあるだけ。

少ない理由は、単にオファーがないからなんだけど、
まあ世間的には男性ヴォーカルのバンドものが得意分野だと
思われているだろうし、実際そうなのかもしれない。

僕を古くから知る人には周知の話なのだが、実は15年くらい
前まで、僕は女性シンガーが基本的に苦手だった。リスナーとして。
好きなのは日本では斉藤美和子、海外ではフランス・ギャルと
クローディーヌ・ロンジェくらい(一貫性が無いなー)。

仕事としてもメーカー・ディレクター時代はほとんど
女性アーティストとは仕事をしていない。
1996年〜97年にかけてrosyという女性5人組ロック・バンドを
担当したのは相当レアな体験ですね。
Litaという男女ユニット(女性ヴォーカル&男性ギター)
とも、2000年前後に2枚のアルバムを作った。
亀田誠治さんとの出会いはスピッツではなく、
このLitaでのお仕事だった。

ユニバーサル ミュージックを辞めて、レーベルを始めたあたりから、
男女関係なく聴けるようになったし、今となってはもしかしたら
女性ヴォーカルのほうが好きかもしれない。

というわけでwilsonic竹内は決して女性ヴォーカルものが
苦手とかそういうことはございませんので、
今後遠慮なくオファーしていただければと思います(営業)。

で。

岡本愛梨は、以前はMAGIC PARTYという男女ユニットで
シンガーAIRIとして活動していた。
2012年6月のMAGIC PARTY解散後、自ら詞曲を書き始める。
主にピアノ弾き語りで録られた数十曲のデモを聴いたのは、
今から1年半も前の2012年9月だったかと記憶する。

独特の "気になる" 曲のタイトルの付け方、ハスキーで特徴的な声、
そしてどこかノスタルジックなメロディに引っかかった。

初めての彼女とのミーティングのときに、自作のCD-Rを持参した。
題して『どこかノスタルジックな匂いのする最近の女性シンガー』。
このコンピ、すごくいいんですよ。
だって、俺が大好きな曲ばかり入っているんですから。
全部洋楽。
でも、詳細は忘れちゃったんだよなー。
その後iTunesがクラッシュしてしまい、プレイリストが
全部無くなってしまったから。

愛梨さんはこのCDの中のいくつかを気に入ってくれたみたいで、
収録アーティストのオリジナル・アルバムを買ったりしたそう。
そして次のミーティングでは今度は、彼女が好きな、
今後の自分の作品作りの参考にしたい曲を集めたCD-Rを
持って来てくれた。
僕はここで初めてCaro Emeraldというアーティストを知った。
これには感謝ですね。

いろいろなアーティストと仕事をしてきているけど、
新しく関わる人からは新たな情報や価値観を教えてもらえるので、
そりゃもう刺激的なんです。
年齢が離れていれば尚更。
ちなみに彼女と僕は二周り、24歳の年齢差がある。
SAKANAMONのメンバーもそのくらい。

まだ発表出来ないけど、たった今レコーディングを
進めているバンドは、21歳と22歳の4人組。
こうなるともう息子娘と変わらんですよ。
価値観とかものの考え方でギャップも多いし、
なんでこんなこと知ってるの?とびっくりしたり、
逆にこんなことも知らないの?と愕然としたりもする。

閑話休題。

2012年の秋からミーティングを重ね、沢山の曲を作り、
いくつかのプリプロを経て、2013年の夏に1曲のレコーディングを行う。
それが3月5日に配信限定リリースとなったシングル曲「アタシ劇場」。

アレンジ、サウンド・プロデュースはex東京事変にしてthe HIATUSの
メンバーであるピアニスト、伊澤一葉

当初ピアノをメインにしたデモが出来ていてそれを伊澤さんに
聴いてもらい、アレンジを練っていただいたのだが、
伊澤さんから出て来たアイディアはピアノではなく
ギターがメイン、しかもまさかのフラメンコ!

全く予想していなかっただけに最初は戸惑ったが、
最終的には曲が持つ世界観を見事に引き出す結果に。
伊澤一葉恐るべし。

ちなみにレコーディング・パーソネルは以下の通り。

岡本愛梨 vocals
Saigenji guitars
伊澤一葉 acoustic piano
山田裕之 upright bass
波多江健 drums
井上うに recording & mixing

曲中の重要なアクセントとなるパルマ(フラメンコ特有の手拍子)は、
ドラム波多江さんご指導のもと、上記の全員で悪戦苦闘しながら録った。

このレコーディングの手応えをきっかけに、
岡本愛梨のソングライティングは確実に進化した。
当初は「アタシ劇場」とそれまで書き溜めていた数曲で
ミニアルバムを作る予定でいたのだが、このレコーディング
以降に作る楽曲がどんどん良くなってきたので、予定変更。

2013年の秋から書かれた曲の中から選んだ5曲、
それが今回『敏感なアンテナ』に収められた曲たち。

それぞれの曲はメロディやアレンジの方向性は結構バラバラ。
それをひとつに集約させるのが岡本愛梨による等身大の歌詞と、
全5曲のサウンド・プロデュースとミキシングを行った関根卓史の存在。

関根さんは、音楽ユニットgolfのメンバーであり、
映像制作ユニットSLEEPERS FILMのメンバー。
彼とはタニザワトモフミのアルバム『何重人格』のときに
タニザワくんから紹介されて初めて会ったのだが、
そのときの仕事のクレヴァーぶりに感心した。
また、その後知り合ったり仲良くなったりする人の中に
関根さんと親しい人が結構多くて、不思議な縁も感じていた。

彼はプレイヤーでありアレンジャーでもあり、エンジニアでもある。

彼がアルバム全体に関わることにより、一見取っ散らかった
セレクションにも思える今回の5曲を1本芯の通ったものに
してくれるのではないか、との思いからのオファーだった。
あと、生楽器と打ち込みの絶妙なバランス。
これも今回のキモ、かな。

柔軟で冷静で、いろんなことに興味を持ち、面白がる。

これが僕の関根卓史評。
結構タイトなスケジュールだったはずなのに、
いつも飄々とした風情で楽しそうに現場をこなす。
しかも愛梨さんのいろんなリクエスト(時に抽象的な)や
僕の無茶振りにもしっかり応えてくれるプロフェッショナル振り!
非常に頼もしい限りで、一緒に仕事していてとても安心。
ありがとうございました!

マスタリングは関根さんの紹介でサイデラマスタリングの森崎さん
サイデラが神宮前に引っ越してから初めての訪問だし、
森崎さんとは初めまして、だったが、いやはや面白かった。
「ハスキー・ヴォイスはマスタリングの醍醐味」
という発言は目から鱗だったなー。面白いなー。

以上のような経緯で、僕が関わるようになってから約1年半。
ようやく岡本愛梨というシンガー・ソングライターが
その第一歩を踏み出した、ミニ・アルバム『敏感なアンテナ』と
配信シングル「アタシ劇場」。

『敏感なアンテナ』はこのSoundCloudでご試聴できます。
「アタシ劇場」こちらのiTunes Storeで聴けます。

新しい才能、楽しんでいただけたら幸いです。

2014年3月1日土曜日

my favorite domestic albums and EPs 2013


前回のブログの続きで、2013年お気に入り音楽の邦楽編28枚。
自分が少しでも関わった作品は除外した。
洋楽編同様、聴いた順で記述した。
見出しに埋め込んだリンクは、何かしら試聴出来るサイトなので、
気になる向きはぜひチェックのほどを。

おとぎ話 "THE WORLD"

迷いが無いときの彼らの無敵感はどのバンドにも勝る。
2013年、彼らはまたひとつ大きくなった。これからがますます楽しみ。

スカート "ひみつ"

現代日本ポップス屈指のメロディ・メイカー澤部渡。
何回もライヴ観てたけど、2013年から飛躍的に音源もライヴも
良くなったのではないか?

うみのて "IN RAINBOW TOKYO"

このアルバムに入っている「SAYONARA BABY BLUE」は、
曲として個人的に2013年邦楽ベストかも。
WWWでのワンマンも忘れがたい。

ROTH BART BARON "化け物山と合唱団"

リリースは2012年だけど入手が今年に入ってから。
2011年に初めて彼らのライヴを観たときもビックリしたが、
昨年久々に観たライヴで超絶曲が良くなっていて更に驚愕。
あわてて最新アルバムを購入。
現代アメリカン・インディと日本語の見事な融合。
奇跡のようなバンド。今年大暴れするはず。

キリンジ "Ten"

毎回唸らされる作品を産み続けて10枚目。
新生キリンジにも期待します。

THEラブ人間 "SONGS"

キャラクターやライヴ・パフォーマンス、詞の内容で
語られることの多い彼らだけど、実は曲がとても良いのです。
2ndが、1stに負けない粒ぞろいのアルバムってのは
そうそう作れないのに、彼らは見事クリアした。

本棚のモヨコ "夢の続きをもう一度"

これまでの作品で僕が思っていたいくつかの課題を、
彼らは一歩一歩クリアしている。頼もしい限り。

フジファブリック "Voyager"

これには脱帽した。
とにかく細部までしっかりと気を配って丁寧に、
そして誠実に作られた作品。
全部いい。全ての若手バンドはこれを一回聴いといたほうがいい。

tofubeats "lost decade"

最新作よりこちら。
ヒラメキのある音楽とは、こういう音楽。

SASAKLA "Spring Has Come"

前2作から飛躍的にクオリティが向上した。
殊にヴォーカルの質感、表現力に唸る。
とてつもないメンツで行われるライヴも含めてこれも現代の奇跡。

夕暮レトロニカ "夜が明ける"

作曲家として、ギタリストとして、非常にユニークな個性
を持ちながら、人懐こい音楽を奏でる。
久々の作品も安心印。もっといっぱいリリースしてよ。

吉澤嘉代子 "魔女図鑑"

新しい才能の登場にワクワクした。
「泣き虫ジュゴン」を聴くと、僕のほうが泣き虫になってしまう。

印象派 "Nietzsche"

音楽はもちろんのこと、バンド名、タイトルなど最高。
ここからどこへ向かうんだろう?という得体の知れない
感じがたまらない。

Negicco "アイドルばかり聴かないで"

2012年に少しBiSにハマりかけたくらいで(ワッキーにひと目惚れ)、
基本的にアイドルには踏み込んでいない僕だが、この曲は良かった。
細かいアレンジのくすぐりもいいし、「ざんねーん」ってめちゃキャッチー!

andymori "宇宙の果てはこの目の前に"

どんどん骨太のバンドになっていく。
風格すら感じる作風なのに、いつもザワザワする。

わたなべよしくに "でもでもでも"

2013年のライヴで出会ったいちばんの衝撃は彼ら。
ナード系アコースティック・ヒップホップ・フォークとでも云えばいいのか。
ここに収録されている「19」っていう曲の圧倒的な
郷愁感というか泣きじゃくり感はいったいなんなのだ。

三回転とひとひねり "回覧盤"

軽やかでちょっとドライで。メロディがすっと入ってくる。

peridots "concourse"

3枚目のアルバムで、最高傑作だと思う。
とにかく全体的に全く無理のないアルバムで、しかも曲がみんないい。
今の日本で、肩に力を入れずに良い曲を作るのは何かと難しいんだが、
タカハシコウキ遂にやりました。

Contrary Parade "アイネクライネリヒトムジーク"

バンドからソロ・ユニットになった彼女の、これが1stフルアルバム。
メロディへのフェティシズムが半端ない。
サウンドもいろんなゲスト・ミュージシャンを迎えてヴァラエティ豊か。

おおたえみり "ルネッサンス"

実は残念ながらこのミニアルバム、彼女のライヴの
凄まじさの1/10くらいしか伝えられていない。
というかあの才能をCDに閉じ込めるのは不可能なのか?

橋本拓也 "Free Energy Study"

この人のこと全く知らないしライヴも観ていないんだけど、
放っておいてはいけないんじゃないか、と思っている。
端正なメロディと淡々としたヴォーカル。好きだこういうの。

あらかじめ決められた恋人たちへ "ドキュメント"

ライヴでの「持って行かれる」感じもすごいけど、
CDはCDですげー良い。

The Cheserasera "Drape"

タワレコ限定の100円シングル。
表題曲はライヴでさらに輝きを増す。
今年に入って出たミニアルバムも傑作。
2014年期待のブライテスト・ホープなんじゃないの?

長澤知之 "黄金の在処"

デビュー前から彼の異能振りを知っていたけど、
このアルバムは最高傑作じゃないすかね?

オワリカラ "踊るロールシャッハ"

シングル曲ってのはこういうもんだ、という見本のような曲。

曽我部恵一 "超越的漫画"

毎回彼の熱量には驚かされるけど、今回は格別。

HAPPY "Lucy EP"

彼らを巡って業界が騒然としていた2013年後半。
僕も純粋に彼らの音楽やライヴが好きで、ファンになった。
このEPには大好きな曲が2曲入っている。
最初に買った盤は、CDの盤面にスプレーがかかってしまっていて、
ターンテーブルに載せても音が出なかった。
次のライヴでメンバーに文句云ったら、ごめんなさいと新しいのをくれた。

僕のレテパシーズ "ぴりぴりのファースト"

ライヴでの古宮くんはいつも不機嫌そうに見えるけど、
実はシャイなだけなんだと思う。
自分がシャイなことに腹が立つ、くらいの。